最先端AI企業ミドクラの技術力支える 優秀な人材が集まるバルセロナ

09 May 2023

Business Investments

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通信インフラが整備されてさえいれば、コンピューター関連のエンジニアは世界中のどこにいても仕事をすることができる。コロナ禍とは関係なく、コンピューターエンジニアの働き方は10年以上前から場所を問わなくなってきていた。しかし、技術者たちが集まるためのリアルな拠点は、やはり必要だ。イノベーションの連鎖は単なる技術の集積だけで生まれるものではない。人間同士のコミュニケーションが大きく作用するからだ。

2010年に東京で創業したミドクラは、11年にバルセロナに開発拠点を設け、現在もバルセロナが開発の中心地だ。19年にソニーグループの傘下に入ったミドクラだが、加藤隆哉・ミドクラ取締役会長共同創業者兼代表取締役(ミドクラジャパン)は、バルセロナを選んだ理由を「そこに人がいるから」と話す。

なぜエベレストに登るのかと問われて「Because it's there.」と答えた登山家ジョージ・マロリーの逸話はとても有名だが、山は動かない。人は動く。加藤隆哉氏という人物が世界トップクラスの有能な人たちを引きつけ、バルセロナというワークライフバランスの整った環境が世界中から優秀な技術者たちを引き寄せる。


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 そこに人がいるから拠点をつくる

知る人ぞ知る加藤氏の経歴は出色だ。京都大学の名門アメリカンフットボールチーム「ギャングスターズ」の黄金期の名選手として知られ、社会人時代と合わせると計4回も日本一を経験している。大学卒業後は「筋肉化した脳をほぐすため」(加藤氏)、1991年に経営コンサルタント会社に入り、93年には京都大学工学部の先輩だった堀義人氏(現・グロービス経営大学院学長、グロービス・キャピタル・パートナーズ代表パートナー)とともに、大学以外では国内初となる経営大学院のグロービスを創設する。

その後、中学時代から面識があった、モバイルコンテンツ開発会社サイバード(当時JASDAQ上場)の創業者である堀主知ロバート氏に請われ、代表取締役兼代表執行役員として同社の経営変革に参画。そして、ヘッドハンティングでCSKホールディングスグループの新規事業開発統括担当責任者として執行役員に就任(当時最年少)。同社退職後の2010年にミドクラを創業した。

「グロービス時代にはベンチャーキャピタリストとしてGREEやオプトウェア、ワークスアプリケーションなど数多くのIT系、技術系ベンチャーに投資、経営支援を行ってきました。しかし、“日本を再び技術立国にしたい”“第2のホンダ、ソニーを生み出したい”そして“それを支える日本発グローバル・テックベンチャーを育てたい”という私の夢は残念ながら、まだかなってはいません。1兆円規模の企業買収も可能なCSKなら、米国の大手テック企業にも対抗できるはずと考えて、05年当時はまだ一般的には知られていなかったクラウドコンピューティングやソーシャルメディア、ブロックチェーンなど、その後、世に出てくると予想した最新の技術動向をリポートし、それに基づいた提案を数多く行いました。だが、その多くは実現しなかった。CSKを出てから思ったのは、日本人として日本発で起業するのなら最初からグローバルなチームを組んで、グローバルスタンダードでやった方がいいということでした(笑)」と加藤氏は当時を振り返る。

ミドクラの共同創業者兼最高技術責任者(CTO)であるルーマニア系アメリカ人、ダン・ミハイ・ドミトリウ(Dan Mihai Dumitriu)氏は、アマゾンで技術主任を務めた経験もある世界トップクラスのコンピュータサイエンスの研究者だ。

「ダンと初めて会ったのはCSK時代ですが、彼がローザンヌ工科大学のクラウドコンピューティングのリサーチフェローをしている時に再会、ネットワークの仮想化技術を開発する会社を起こそうと二人で意気投合して、ミドクラを立ち上げました。その半年後ぐらいに、コーネル大学でダンと同窓だったイタリア系アメリカ人、ピノ・デ・キャンディア(Pino de Candia)もミドクラに入り、以来、チーフアーキテクトを担ってもらっていました。ピノはアマゾン時代、高速分散データベース技術として世界的に有名なダイナモを考案・開発した、いわゆる天才君です(笑)。奥さんも米国人なのですが、バルセロナで出産したいと夫婦でバルセロナに住んでいました。ミドクラの海外拠点がローザンヌとバルセロナにあるのは、もともとはダンとピノが住む場所だったからです」

そこに人がいるから、そこに拠点をつくる。シンプルだが、理にかなっている。

ミドクラが考えるAIの未来

「技術者はカッティング・エッジ、つまり最先端でユニークなもの、世の中をこう変えていけたらいいね、ということにワクワクする人たちです。既にある技術ではなく、未来を変える技術に魅力を感じます。私はダンやピノをはじめ、コア人材たちにそういう御旗を立てて誘いました」と加藤氏は話す。もちろん、単に夢を語るだけではなく、テクノロジーに関する豊富な知識に裏打ちされた未来像がそこにはあった。

ミドクラは現在、ソニーセミコンダクタソリューションズグループの一員として、同社システムソリューション事業部と連携、エッジAIセンシングプラットフォームを開発している。

「コンピューターは集中型と分散型が交互に入れ替わって進化してきたという歴史を持っています。クラウドは集中型のコンピューティングですが、年に1度はダウンしてしまう欠点がある。人の命を預かる自動運転システムをこうした集中型で動かしたら、事故が起きてしまうリスクがあります。ネットワークの仮想化も実は分散型の思考がベースにあるのですが、エッジコンピューティングは、センサーや測定器が採取したデータをエッジ(データを送り出すポイント)に配置したデバイス内で解析して、遠隔地にある中央のコンピューターには(エッジから)必要なデータだけを送信するという発想です。これによって、プライバシーを守りながら、ネットワークの負担を軽減し、応答速度も向上させることができます」(加藤氏)

米IT大手GAFA各社は自前でエッジAI半導体の開発に乗り出している。日本でも既存の半導体メーカーや自動車部品メーカー、大手電気メーカーなどが開発に参入しているが、既に半周遅れの感がある。その点、「ソニーにはCMOSイメージセンサーという知的所有権の塊とともに、画像処理技術の蓄積があります。AIで一番付加価値があるのは、画像や音声などの大量のファクトデータです。現在はそのデータをクラウドに上げて解析していますが、ソニーの技術ならチップ上で画像解析できるようになる。それをコンテナーやWASM(※)などの仮想化技術と組み合わせることで、ものすごいベネフィットが得られるようになります」

 ワークライフバランスが充実するバルセロナ

ミドクラでは、こうした最先端の技術開発をバルセロナの拠点を中心に行っている。

「当社は4月末時点で従業員が全世界で約60人、そのうち50人程度がリモート勤務も含めてバルセロナに在籍しています。国籍は15カ国。スペインにはスペイン語圏を広くカバーするテレフォニカという巨大な通信会社があり、コンピューターサイエンスの先進地域でもあります。クラウドコンピューティングがらみ、ネットワークがらみの優秀なインフラエンジニアたちがたくさんいるのは、進出した時点から分かっていました」と加藤氏。

2011年当時、GAFAなどIT大手は、まだバルセロナのことを真剣には見ていなかったという。今ではテックセントリックなベンチャーがたくさん生まれているバルセロナだが、当時は優秀な人材も採用しやすかったと加藤氏は語る。ただ、最近ではAmazonやGoogle、Microsoftなどがバルセロナでの人材獲得に本腰を入れてきている。既に採用難になり始めており、ミドクラでは採用対象を欧州全域にまで広げている。

「所属する勤務地は東京、ローザンヌ、バルセロナから選べますが、バルセロナという名前が出ると、いいね!と言われます。東欧や北欧には非常に優秀なエンジニアがたくさんいますが、価値を生み出す人材は、基本的にワークライフバランスをとても重視します。ですから、優秀な人材を確保したい場合には人件費を基準にするのではなく、会社の文化との相性が実はとても重要になります。日本企業のルールをそのまま持ち込んでいたら、優秀な人材は、みんないなくなると思います。モノカルチャーではなく、グローバルでフラットなカルチャーかどうか、それがとても大切なんです。私たちのバルセロナの拠点名は『Midohouse(ミドハウス)』といいます。社員が集まってリラックスしながら活発な議論ができる“家”を目指しているからです。私たちは社員とその家族をとても大切にしています。バルセロナという都市そのものが、そうした人と人のつながりを大切にするカルチャーの代名詞でもあるのです」。

 ミドクラがカタルーニャ州を選んだ 5つの理由

  1.     事業のコア人材が居住する地だった
  2.     高度IT人材の現地採用のしやすさ
  3.     ワークライフバランスの最適地
  4.     優秀な人材がいいね!という場所
  5.     グローバルでフラットなカルチャー

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